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スマートシニア・ビジネスレビュー 2024年7月26日 Vol.245

フランスは欧州でシルバーエコノミーを推進している唯一の国

これまで何度かお伝えしてきましたが、フランスは2013 年より社会の高齢化にかかわる全てのサービスや産業を « La Silver Economy »(シルバーエコノミー)と名づけ、今後の経済発展における重要セクターと位置づけました。

私は拙著「シニアシフトの衝撃」「これから世界中に広がるシニアシフト」と述べ、近い将来に高齢化が進む国々で企業活動のシニアシフトが進むと予告してきました。それがフランスでも現実化したのです。

この動きが始まる以前に、私は欧州各国(ドイツ、英国、イタリア、スイス、フィンランド、スウェーデンなど)の政府・企業から多くの相談や講演等の依頼を受けていました。

しかし、フランスからはこうした動きはありませんでした。従来フランスはシニア市場への取り組みが遅れていたからです。

福祉の分野で欧州は先進国のイメージが強く、日本の福祉関係者はいまだに欧州詣でをする傾向があります。

しかし、アクティブシニア向けのビジネスに関しては、欧州よりも日本の方が進んでいるのが現状です。シルバーエコノミーの動きが始まって以来、多くのフランス企業、団体が日本に視察にやってきて、私も何度も講演したり、アドバイスをしたりしたものです。

発展途上中のフランスのシニア向け商品・サービス

私が見る限り、フランスのシニアビジネスの課題は次の二つです。

  1. フランス企業の商材は日本企業のものと重なる場合が多く、日本や他国で売れにくい
  2. プロモーション的なイベントが多く、事業そのものの事例が少ない

1については、シルバーエコノミーと謳っているものの、医療・介護系ソリューション的なものの割合が多く、かつ、高齢者の見守りや転倒検知、パワードスーツなど日本に数多くの商材がある分野と重なっています。

日本の介護用品(福祉機器)は、公的介護保険適用であれば、利用者負担1割で利用できるため、似たような機能のフランスの割高な製品をわざわざ使うインセンティブは湧きません。

一方、日本企業の福祉用具も欧州でほとんど売れません。欧州ではドイツとオランダ以外に公的介護保険制度はありませんが、似たような機能の日本の割高な製品をわざわざ導入する理由がないからです。

もっとも、日本のほとんどの福祉機器メーカーはそもそも海外市場に出ていくつもりがないことも理由です。

プロモーションイベントばかりやっても、シニア市場は拡大しない

2については、シニア向けビジネスのコンテストやピッチなどのイベントが多いのですが、肝心要のよいビジネス事例が非常に少ないのが現状です。

実は日本でも2002年頃に「アクティブ・エイジング・キャンペーン」というのがありました。これからアクティブシニア市場が拡大すると謳って、複数の大手企業から協賛を募り、タレントによるトークショーと展示会を行ったものです。このイベントは開始当初は注目を浴びたものの、3年後には消滅しました。

以降、「大人の文化祭」「GGコレクション」などといったイベントが数年おきに出現しましたが、どれも数年で消滅しています。

社会の高齢化が進むと世界中で似たような動きが起きる

興味深いことに、同様の動きは日本以外でも多く見られます。

2004年頃、アメリカのASA(American Society of Aging)という団体が「Business Forum on Aging」というグループを立ち上げ、アクティブシニア市場創出の動きを図ろうとしました。しかし、日本以上に競争が激しい民間企業同士でのコラボはなかなか機能せず、数年後に消滅しました。

2008年にシンガポールで「Silver Industry Conference & Exhibition」が政府の肝いりで開催されました。シンガポールが次に目指すべきはシルバー産業だとして、巨額の補助金をつぎ込み、アクティブシニア市場開拓の動きを試みました。しかし、結局3年後には方針を転換、政府は介護産業の育成にシフトしました。

また2010年にはドイツでアクティブシニアのことを「Best Ager」と呼んで、市場喚起を図る動きがありました。同じ頃、韓国でもアクティブシニア市場への関心が高まり、多くのイベントが開催されましたが、ほとんどが消滅状態にあります。

なぜ、アクティブシニア市場キャンペーンは数年で消滅するのか?

このように社会の高齢化がある程度進むと、どの国でも必ず最初にアクティブシニア市場を狙うキャンペーンが催されます。しかし、残念ながらそれらは数年で消滅していきます。

その最大の理由は「市場がない」からです。

市場創出には需要と供給の両方が必要ですが、多くの場合、需要創出や需要喚起の施策がほとんどなされず、「シニア市場の潜在力は巨大で次の成長市場である」といった根拠のないキャンペーンのみがなされるのです。

高齢化率で世界一の日本は、すでに具体的な商品・サービスが沢山あります。根拠のないキャンペーンではなく、具体的なビジネスの成功事例を一つでも多く積み重ねていくことが最も説得力があり、海外市場に対するバーゲニングになるのです。